「リトルメロディ」七尾旅人

かつての「COVERS」のように聴く側の想像力と音楽的語彙の貧しさから、
作品が反戦反核解釈のみに矮小化された失敗を、
私たちは繰り返してはいけない。

あのアルバムとこのアルバムは、
そんな狭い視野で見る景色ではないのだ。


8月7日、ジャケットからもうぼくには伝わった。

リトルメロディ

リトルメロディ

ぼくはいま、先日「名盤かどうかだけが興味がある」なんてことを
偉そうに書いてしまったことを猛烈に反省している。

そんな反省を抱えながら、
このアルバムについて書かざるを得ないこの衝動。

アルバム2曲目に「圏内の歌」

 子どもたちだけでもどこか遠くへ

 離れられない小さな町

現在、極東のリアルの極地はこのアルバムにあるのかもしれない。
そんな予感で満たされる。

このアルバムには沈黙と隙間が沢山ある。
――そうだ。
何かを選んで生きていくことにしたぼくらには、
きっと休符が必要だったのだ。

キリシタン狩りのなか、神様の「沈黙」に絶望した末に、
沈黙の寄り添いに希望を見いだす遠藤周作の「沈黙」。

沈黙 (新潮文庫)

沈黙 (新潮文庫)

3.11前からの閉塞感を抱えて生きる3.11後のぼくらは、
休符がつなぐ「リトルメロディ」に新たな希望を見いだすだろう。

「サーカスナイト」につながるストーリー。

 夏が君を変えてゆく
 一生分のこと 変えてしまいたい 今夜のキス

そんな夏のキスは、こんなふうな小さな調べかもしれない。

サーカスナイトの物語に酔いしれていると、突然針が刺さる。


 どんなにそれが絵空事でも飛ぶしかない


小さいときに布団で読んでもらったような物語と、
3.11後の今がぴったりと重なる瞬間。
それはまるで、今年の5月21日の朝に空に見た指輪のようだった。

   


8曲目「劣悪、俗悪、醜悪、最悪」は
RCサクセションの名盤『シングル・マン』の
「レコーディング・マン」を連想した。

シングル・マン

シングル・マン

無音だけではなく、
砂嵐のようなノイズもふんだんに使われてるのだが、
それもきっと彼が置く沈黙への信なのだと思う。

かつて、あるバンドはこう歌った。
「音楽は何のために鳴り響きゃいいの?」

七尾旅人はきっと、その答えを出したのだろう。
一つの答えを。

帰る場所をなくした人を、ぼくらは知ろうとしなきゃいけない。

そして、彼らに寄り添う小さな調べがあればいいと願うのだ。

いいことがあるといいね、きみにもぼくにも。

社会の窓はあけておきたい。