はじめてのおつかい

土曜日はお昼近くまで寝ていた。
シャワーを浴びて、身支度をして、近くの大きな公園へ向かった。

途中、パン屋でパンを買っていると、5歳くらいの少年がひとりで入ってきた。彼はメモ1枚と、お母さんのお財布を抱えていた。

少し緊張したような顔でメモを確認し、まずはブドウジュース。それからお母さんの言いつけどおり、指差し点検で枚数を確認してから、6枚切りの食パンを危うげな手つきで手にとる。食パンはギリギリ手が届くかどうかの高さ。袋の口が開いていたので落っこちるかなと思って「とってあげようか」と声をかけようとする直前に彼は勢いよくジャンプ!おもわず「あっ!」と声を出してしまった。食パンは少年の胸のなかに不思議とおさまっていった。
ナイスキャッチである。

そのあと後ろに並ぶ少年が少し得意気に「はじめてのおつかい...」と上目使いで教えてくれた。「そうなんだ。嬉しいよね」なんて言葉を交わしたので、それだけでその日はもうさいこう。彼のTシャツがかっこよかった。少年はパン屋から出るや、世界で一番のダッシュをキメて帰っていきました。ありがとう。さいこうだ。

はじめてのおつかいを任せてくれたときの気持ち、成し遂げたときの気持ち、どちらもおぼろげに、しかしやはりはっきりと覚えている。

彼に弟や妹がいたとしても、せめて今日だけは、世界で一番甘えさせてあげて欲しい。

ブドウジュースをどんな顔で飲んだか、食パンがどんな味だったか。描かれていない余白を想像してみる。

世界がはじめてのおつかいで膨らんでいけばいい。世界の潮は満ちていく。