楽しむためのファイティングポーズ

青い花を買ってみた。どの花屋で買おうか迷っているうちに自転車圏内で行ける商店街を4つほど回ってしまった。しかし花屋って意識して探してみると、思ったよりもたくさんある。よく見ると服屋、クリーニング屋の次くらいにある。もっとニッチな商売かと思っていた。とても不思議だ。結局、近くの商店街の、やっているんだかやっていないんだかよくわかんないようなお店で、かっこいい青い花を見つけた。店員のおじいさんの耳が遠い。300円支払う。青い花を持って自転車を押す。花を掲げて持つとなんだか聖火ランナーみたいだ。青い花はかっこいい。花なんて自分のために買うのはたぶんはじめてだったから舞い上がってしまい、ついに花の名前を教えてもらうのを忘れてしまった。花瓶を買いに行こうかな、なんて思っていたら、たまたま隣のマンションの前に「ご自由にどうぞ」とリユースボックスが出ていたので、花瓶は無料でふたつゲットすることができた。ラッキーである。青い花は玄関、台所、部屋の3ヶ所に置いている。台所に花を置いてから、花のために台所をきれいにしないと!と思うようになった。一人暮らしでもおんなじ空間に自分以外の存在を考えたりできるのはすごいことだ。

忘却のサチコという漫画を初めて読んだ。行儀がワルいけど日高屋のニラレバ炒め定食を食べながら読んだ。不意に泣きそうになった。理由はよくわからない。日高屋のニラレバなんて5億回くらい食べてるのに。おいしいってすげえ。ぼくがはじめて日高屋のニラレバ炒め定食を食べたときのことを思い出す。たしかあれは高校一年の夏の夕方、塾の自習室に通っていたときだ。川口そごうの一階にひっそりとあった、間接照明の日高屋。あんなムーディーなフェロモンを醸し出す日高屋は他にみたことがない。そしてあのニラレバ炒めの感動を超えたことはそれ以来ない。でもこの日は限りなく近づいてた。だれか日高屋でバイトしてる人、あのタレの作り方だけでも教えてください。おいしい記憶について思いを巡らしてみる。みんなで食べに行ったお寿司屋さん、母親が作ってくれたタケノコご飯や唐揚げ、大きめの小鉢に入れて家族と共有する納豆、アサリの味噌汁。

今年の目標のひとつが健康管理で、「体調を崩すのは年間で二回まで」を達成基準としていた。しかし先日の奥多摩登山以降、喉の調子が優れない。帰りのバスが冷房直下のなか一時間以上も揺られていたせいだろう。これを1カウントとすべきか判断がわかれるところだが、熱もないため風邪に移行させなければノーカウントとすることにした。自分に甘い。タオルケット、掛け布団、毛布にくるまり汗を流しながら寝た。首筋に汗がながれていくのを感じた。翌朝起きると喉の痛みとここ最近続いていた慢性的なからだのだるさが抜けていた。ノーカウントだ。にやり。風邪の効用という本は、きっといまのぼくのような心境で書かれた本なのではないか。

日曜日、ザ・なつやすみバンドが出るというので、所沢の航空公園で開かれた「空飛ぶピクニック」へ行ってきた。これからしばらくは休日出勤が続くので、好きなバンドは見られるときに見ておきたい。意外と大きいステージに驚いた。お昼にチキンバーガーをひとつ買って、おやつにスーパーで買ってきたリンゴを丸かじりした。野外で食べるリンゴはうまい。パーク最終日に会ったカップルに会えた。ああいうのはなんだかとても嬉しい。出演者はほとんど全員観たことがあったが特に印象的だったのはコトリンゴさん。彼女の跳ねるピアノが好きだ。でもほんとうにすごいとおもったのは彼女の人柄で、あんなに気品がある(コトリンゴさんには呼び捨てになんて決してできない)のに、あんなにかわいらしい。そのふたつが同居している。それを育ちのよさといってしまうのは簡単だが、周りの環境以上に心のスレに負けない彼女自身の心の強さなのではないだろうか。そんなことを思っていたら観客のこどもたちがシェイカーで参加している。「次の曲はあんまりマラカスは合わないかもしれないけど、、かわいいからやりたかったらやってください」なんて言葉はおれのこころからは一口も出てこないだろう。言葉の温度で嘘かどうかなんてわかってしまうものだ。性格の力というものがこの世にはある。

ストレスをスピードや推進力に変える仕事のやり方を、ぼくはそろそろ卒業しようとおもって、いま色々ともがいてて、もがきはじめてからそろそろ3か月です。ようやく、少しずつ違うやり方が見えてきた。40年働くうちの5年間でちがうチャンネルを見つけられるなんて、ぼくはなんて運がいいのだろう。楽しいことなんてたくさんあるってことを忘れないようにしたいから、楽しいことをずっとしていたい。もしこの世に楽しむ構えとか楽しむためのファイティングポーズなんてものがあるとすれば、じぶんだけのそれを見つける道中はめちゃくちゃ楽しそうじゃないか。楽しむためのファイティングポーズ。戦うのはストレスとではない。ストレスに負けて苛立ったり意地悪くなってしまう自分となのだ。どうしても諦めてしまいそうなときは仕事を中断。屋上に行って少し休憩。席でストレッチ。紅茶を淹れに席を立つ。トイレでかおを洗う。Googleを開いて今日の占いでも調べよう。そんなささいなことがくだらない自分を支えてくれる。