フジロッ久(仮)×せのしすたぁ 20161226@下北沢SHELTER「ALL YOU NEED IS LOVE」

高橋元希さんがフジロッ久(仮)を脱退した。「ALL YOU NEED IS LOVE」という企画名を冠して、下北沢SHELTERにてせのしすたぁを迎えるというブッキングに、どうしようもなく元希さんらしさを感じる。この日に向けて、ファンの間では密かに、プレゼントのためのカンパ、元希さんへのメッセージカードなどの企画が組まれていった。そんなところにも、この人がどれだけ人望が厚く、愛されているのかを伺い知ることが出来るだろう。

脱退に対する思いは以前の記事に譲るとして、ここではこの日、ぼくが見てきたことを書いておきたい。

仕事を終え、私服に着替えて下北沢に急ぐ。SHELTER前にはkbさんがいた。書いてきたメッセージカードを渡しながらファンみなさんのカンパが花と大漁旗に変わったことを教えてもらう。「きょうは楽しもう」と約束する。受付の列に並んだ。後ろにいるせのしすたぁファンから話しかけられた。
「フジロッ久のファンですか?ぼくフジロッ久はじめてで」
「さいこうですよ、とくに、きっと、きょうは。」
受付へ進んだ。

入場後、ドリンクを交換して物販へ。藤原さんが用意したという「げんきくん」。中身も確認せずに買った。終演後、壁に寄りかかりながら袋の中身を見たぼくは、藤原さんの元希さんへのつよい愛の質量にぶっとばされることになる。そんなことを、このときはまだ予想もしていない。

月は遠く、19時30分を打つ。おおきな声で元希さんが出てきた。ハイスタがトリを飾ったエアジャムの話と重ね、せのしすたぁの今夜に臨む思いを考えてしまう、楽しみにしてるとの挨拶。このときぼくはどうやったって元希さんがきょうの主役だと思っていた。5分押してせのしすたぁが始まった。まさかせのしすたぁで泣くとは思わなかったが、せのしすたぁを見て泣いた。泣いている人が周りにもいたので、きっとそういうステージだったのだと思う。まおさんは、誰が辞めるんだか知らないけどとうそぶき、観に来てくれた人のためにやれることをやるだけとつなげるMC。正味な話、場末のスナックみたいな声で煽ってくるのに、なんでこんなに届くのか。1年前この場所で見たときとはステージに背負っている思いがちがう。強い思いの総量でもってぶつけられた音楽は、それがたとえカラオケだとしても、こんなに観客の心に届くのか。花を持たせようなんて考えてない、対バンとしてぶっつぶすことがさいこうのはなむけ。そんな気持ちが、ステージの隅に見えた。

しばしの転換の後にフジ久とのコラボ2曲。すでに素晴らしい。隣の観客が荷物を端っこに置いたと話しているのを聞きぼくも貴重品以外の荷物を置いた。この日フロアのあちこちで「始まってほしくない、終わっちゃうから」との声をいったい何度聴いただろう。そんな声を、消えた照明を追いかけるようにして聞こえてくるあのSEが塗りつぶしていく。だだんだーーん、だだんだーーーん

「うまれる」から始まるのは、2015年のバーンとおんなじだ。今日の1曲目としてこれ以上ない選曲。あのことばが聞こえてくる。「ちゃんと終わらせて、またちゃんと始めて、ちゃんと始めたことがまたちゃんと終わって、ちゃんと始まって、それが死んだとしても、また誰かがちゃんと始めて、終わらせて、そうやって続いていくことが、終わらないただひとつの方法」。

ひとりであること、たったひとりであることを藤原さんは、切ないくらいに強調した。ひとり対ひとり。そう言って「おかしなふたり」を呼び寄せる。ありたい自分であることを突き詰めて突き詰めた先の先にある、「逆らえ!」。このひとりであることへのこだわりは、ぼくらが持ち帰った「げんきくん」をもって完成することとなった。

シュプレヒコール」のサックスと鍵盤が絡む。もっともっと!もっともっともっと!と叫ぶ。後ろでは照明がストロボみたいにバチバチと焚かれている。そんなにしなくてもね、しっかり焼き付いてるよ。ほら、ダイブした観客の足が藤原さんの鼻や右目あたりにぶつかったことだって、ぼくらはよく覚えている。「ドリカム」、「ワナワナ」、どれもなりたい自分、ありたい自分の物語に聞こえてくる。はてしなくひとり、であることの物語。

そして始まる「ライブ」。元希さんがダイブ、奥まで運ばれる。藤原さんはじめバンドはステージで丁寧な演奏を続けた。出来すぎてるくらいのその景色には、出ていく人と見送る人の気持ちが託してある気がして、ひとりで勝手に見たその物語に、ぼくはすごい顔して泣いていた。

「バンドをやろうぜ」という曲をバンドを抜ける者が歌うことに嘘なんてひとつもない。首を打ったり、突き指をしたり、骨を当てられたりしながら、なんでここにいるのかもよくわからなくなりながら、ぼくは音楽を聴いている。昨日読み直した小説、麦ふみクーツェを思いながら、ぼくは音楽を聴いている。隣の人の口臭や体臭、すべての汗や体液。それらに混じりながら。なぜ辞めるのかもわからない。なぜ音楽を聴くのかもわからない。それでも、せずにいられないことに、せずにいられないことにだけ耳をすませていれば。頭と頭が重なり、2センチメートル四方しかない視界のなかに、下手くそなヤジをかきわけて、音楽を探す。全力を叩きつけるような音楽は、今日みたいな音が鳴る。まいにち、今日みたいに生きていられれば、いいのになぁ。

そしてつながれる「アナーキー」。耳に染みついたあのシンセサイザーのリフが鳴る。げんきさんは藤原さんにがっと身を寄せる。信じられないこんな景色、こんな景色がもう見れない。そんなことは、いまはもう考える隙間もない。藤原さんはたまらない顔をしながらギターを弾く。今夜、いったい何度目のダイブだろう。そして、「あそぼう」、「ドゥワチャ」へ。所さんはいままでみたことのないドラムを叩いている。何をどう言ったとしても、だれにとってもとくべつなのだ。いつのまにか、ぼくは2列目にいて、サックスにむかって叫んでいる。もっと、もっと、もっと。通りもしない声を張り上げて唾を飛ばす。もっと、もっと、もっと。マイクロフォンにかなうわけもない喉を、ぽくは震わせる。もっと、もっと、もっと。喉が切れる。しかし滑稽なほどに繰り返す。もっと、もっと、もっと。もっと!もっと!

アンコール、アンコール!という周りの歓声に、ぼくはRHAPSODY NAKEDのファンの声をかさねる。ああ、36年前の久保講堂のライブは、こんなふうだったんだな。拍手では足りやしないアンコールが、この世にはあるみたいだ。メンバー紹介、そう言って、サポートから紹介。満を持したような形で、メンバーに差し掛かる。確かにバンドは友だちじゃないかもしれない。それでも、とぼくは思う。この世に男の友情というものがあるとするなら、こういうものだと辞書に載せたい。

最後の曲に何を選ぶのか、ずっとずっと楽しみだった。「結婚しようぜ」。ステージ端でトロンボーン弾きはたまらない顔をしながら、結婚しようぜを聴いている。この曲はこんな曲だったのか。藤原さんはものすごい目をしながら、元希さんの左半身を焼き付けてギターを弾いている。そんな最後みたいな顔で弾くなよ。おれは知ってんだ、あんたは元希さんのこと、大好きなんだよ。藤原さん、いつも「フジ久はメンバーとずっと一緒に過ごしてたいって思ってるわけじゃないしメシとかもけっこうバラバラに食べるよ」とか言ってるくせに。やっぱり大好きなんじゃないか。もし嘘だなんて言うのなら、藤原さんがつくった「げんきくん」に寄せた文章を読んでくれよ。藤原亮が、ぼくが、あの場にいる誰もが、高橋元希を大好きだということが心底よく分かった。愛されるために必要なことは、天才やハンサムやカリスマではない。絞り出すようなギリギリの声で、しかし息を切らさず、足元の綱を決して外さずに、元希さんは結婚しようぜを渡りきった。今夜愛されるために必要なことはいったいなんだというのだろう。

アンコール明けてフジ久が出てくる。いろんなヤジが飛ぶ。もはや恒例「最初からやれー」、「はたらかせてくれよー」、「朝までやれー」ってヤジの後に、だれかがひとりごとっぽく「おれ明日仕事休みなんだよね」って小さなつぶやきみたいなヤジしてたのが、ほんとさいこうだった。恥ずかしそうに、なあ頼むよって感じに。30秒くらいみんなで笑った。次の8分でいまのに負けない今日イチをつくろう、その呼び声で始める「はたらくおっさん」。気を抜けばあっという間に怪我をしそうな勢いで音楽を楽しむ。藤原さんが飛び込む。元希さんが飛び込む。このひとたちは、ぜったいに落としてはいけないと、抱える誰もが思った。

ライブが終わる。感想が出てこないままに、なんとなくライブハウスに残る。紙吹雪はとんでもない量が落ちている。ファンからの贈り物を元希さんに渡す姿を横で見ていた。

元希さんに話しかける勇気なんて1ミリも出なかった。もはや病気なんじゃないか。何人かのファンと話す。一晩くらい寝なくても、そう思い、このあとにファンたちでDVD上映会をやるというので、参加したいと思った。喉が乾いたので、コーラを頼み、壁に寄りかかりながら「げんきくん」を見た。感動してる間に、kbさんと話す。力をもらうようなことばをくれた。こんなライブ、書けるわけもないと思いつつ、それでもブログを書くことを考えてみる。「げんきくん」をもう一度ひらく。誰かといるといま見てきたことが薄まってしまうような気がして、せっかくのDVD上映会は失礼をして、たったひとりで帰宅した。

高橋元希さんは、フジロッ久(仮)を脱退した。たったひとりでいること。はてしなくひとりであることの物語。その物語はいま始まったばかりなような気もするし、どこかで終わったばかりなような気もしている。