繕う姿もまた滑稽かな。

土曜日、八時半に目を覚ましたが何度も寝直す。お昼頃、ようやく起床。部屋の掃除をした。冷蔵庫の上や横、ベッドの隅、戸の縁など。乾かしていた花を壁に貼り、革靴を磨いた。夕方を過ぎた頃、外に散歩に出た。いつもの休日。

雪山であったかいと思っていた格好でも街で着ると寒いのはなんでだろう。まいにち出来の良いウールの下着を着て過ごしていたい。眠るときはパジャマを着て寝たい。

公園で凧上げをしていたこどもたちが木に引っかけてしまったようで、テニスボールを投げて外そうと苦心していた。商店街では服を着込んで焼き鳥を焼くおじさん。酒くさいけれど心地よさげなおじいさん。ぼくらが心地よくなるスイッチの場所をどうもお酒は知っているらしい。唐揚げ専門店からは香ばしい風が商店街の先っぽにむかって流れていく。残らない景色、通過していく景色は誰のものにもならずにどうなってしまうのだろう。現実にもそんなことはたくさんあるよな。過去の記憶が立ち上ぼり、もう一生あんなことはないだろうなあとつぶやく。いつのまにかシャワーを浴びているような気分になっていた。油断したのか、ほんとうに大切なことはなんだろうなどと恥ずかしいことばを続けた。すぐ後ろにおじさんがいたのに気がつく。恥ずかしくなったのでわざとゆっくり歩いて体裁を保った。繕う姿もまた滑稽かな。周りが見えなくなるほどに自分の世界に浸りすぎないことだよ、と20秒前のぼくに伝えてやりたい。横断歩道に逆らって歩く。車のヘッドライトが放射する光とそれを浴びる歩行者の背中を、45秒でいいから見続けたい。

このまえの火曜日に奥歯に銀歯を入れたけれどいまだに違和感が少しある。ぼくの一部は銀でできている。Ag。ピザ屋さんに入ってマルゲリータとホットコーヒーを注文した。店員が若く、おしゃれなのに言いようのないトゲがあって、お店の空気がすきになれなかった。コーヒーとピザはおいしかった。家から持ってきたこの世界の片隅にの漫画を読んだ。光のよく入る窓際にワインが置かれていてこれは置物と割りきっているのかそれとも、などと考えた。おしゃれなランタンのような電球には埃がかぶっていて、蜘蛛の糸も垂れていた。フレームの円径を蜘蛛の糸が切取り、弧を作る。点Pと点Q。弧PQの長さを求めるために半径と角度を求める。数学だけやっていれば許されていた時期なんて誰にさえもない。掛けちがったボタンがたとえばあったとして、それを掛け直せる人はどれだけいるのだろう。観念的になりすぎている悩みと言えない悩みはぜんぶ排泄して肥やしにしたい。

新宿へ。生クリームとキャラメルのにおいがしてきた。ぼくは唐揚げの方が好きだ。階段を降りると街なかに便所のにおいが漂っていて、新宿も池袋も誰かがなにかを排泄して肥やしにしている街なのだと思った。繁華街を薄っぺらく歩くとぬるま湯に浸かっているような心地になる。タワレコで買っていなかった音楽を試聴する。買いたい気持ちに子守唄でも歌ってやろうか。

明日はカーテンでも洗濯しよう。