in da house lounge1日目@黄金町試聴室

横浜黄金町にある試聴室その2へ。in da house lounge1日目(in da house)。京急に乗って向かった。電車が遅れていて、お腹が空いてしまう。それになんだかすこし電車酔いした気がした。黄金町に着くとしばらく時間があったので駅の近くのラーメン屋でたんめんを食べた。やさしさを求めていたのだけれどごま油の臭いがすこしキツかった。

14時ちょうどに試聴室に着いた。さわやかなものを飲みたくて青リンゴサワーを頼む。試聴室の横には川が流れていて、対岸との距離感が長崎の中島川に似ていた。試聴室のなかを2周してからもう一度外をみると、白い鳥たちが何十羽も川に沿って翔んでいて、きれいだなとおもった。DJを聞きながらお酒を飲む。こういうのは久しぶりな気がして楽しい。

いつのまにか始まった雰囲気クラブを20分くらい聞いていただろうか。気分よく聞いていたのだが、急に頭から血の気が引いて気持ち悪くなる。息でも止めていたのだろうか。急いでふらふらと離脱してトイレへ。二ヶ月ほど前にもこんなことがあった。病気かなと心配しながら2,3分座っていたらすこし回復した。じぶんだけのin da houseにしてください、との冒頭のMC.sirafuさんの言葉を思い出し、気分転換にしばらく黄金町を散歩してみることにした。

試聴室を出ると川にはさっき翔んでいった白い鳥たちが何十羽もいた。列の中央に1羽だけ、クスリでもキメているのか不自然な動きをつづける鳥がいた。おかしなやつはどこにでもいるな、とおかしくなってくすりと笑った。クスリだけに。

路地を入りながら日の出町に向かってしばしふらつく。妖しげなお店はかつてのちょんの間ということだろうか。ぼくの知らない「浄化」を超えて旅館として生き延びたお店などはたしてあったのだろうか。そこに生きる人や通った人は、それからその周りで暮らしていた人は、どう変わったのだろうか。かつての風景を想像するが、遠く及びもしない。それでも路地に重なる沈黙にはかつての「繁栄」が沈殿しているような気がした。いまの沈黙とかつての栄華、どちらがよかったのか、それは誰にもわからない。良さそうな飲み屋がいくつかあった。

この程度の幅の川には橋がたくさんかかっているので、上流から下流へ橋を見つけたら渡り川を下るあそびをいつか居心地の良い人としてみたい。川を渡ると商店街があった。ここは曙町の方だろうか。ひとつ路地に入ればあちこち風俗店やラブリーなホテルが点在している。こちらは合法な風俗街だったということか。川を挟んで区切りとした街づくりの暗黙知もまた興味深い。きっとそこにも上位と下位の階層の歴史があるのだ。それからタイのマッサージ屋とタイ料理屋が驚くほどにたくさんあった。もしかするとそういうことなのかもしれない。実におもしろい街だ。街の特徴には少なからずその歴史があらわれる。

数十分はふらふらと歩き、関内までもうすこしのところまで来たところで立ち止まり、戻った。試聴室に戻ると三輪二郎のステージが始まっていた。この人のロックンロールは、砂の校庭を全力で駆け急に止まったみたいな音がする。ズザーーーッ。すり減った靴の底から胸の方に音楽がのぼってくる。粗野な趣でシャウトしたかと思えば、エッチなことをどうでも良さそうに歌い、それでいてギターは仔猫をあやすような手つきで扱ったりする。先程の気持ち悪さはいつのまにかだいぶ薄らいでいた。

DJ中にピザトーストを食べた。オハイオプレイヤーズのHONEYから掛けていた曲がスウィートなソウルで、とても好みだった。

そしてザ・なつやすみバンドが始まった。三輪二郎がさいこうのアジテーションで盛り上げる。この日はフルートに池田さんを迎える格好。パラードから始まる。フルートが影のように奏でる旋律が奥行きを与えていて、豊かで、感動した。ステージの配置も池田さんとsirafuさんを両脇に据えて、中川さんとみずきちゃんで潤さんを挟む。スティールパンの打楽器感が見た目にも際立つし、両極ふたりの楽器が曲に絡んでいく音が可視化されているようだったところもよかった。ラスト、悲しみは僕をこえてが鳴り止んだ後、静寂に移るまでの一瞬の振動としばしの沈黙、それを切り裂いたおおきな喝采まで含めてのステージだったと言いたい。

それほど時間を置かずに始まったテニスコーツ。序盤は新曲やモノマネに笑わされたが何を置いてもラスト。隣の川でつくったという名曲「光輪」をなつやすみバンドや三輪二郎をひとりずつ招いて奏でたのだけれど、それがほんとうに素晴らしかった。バンドサウンドにしてもほとんど音の余白を失わず迫力と切実さだけ手に入れたみたいだった。なにより、この曲をよく知らなかったのかもしれない三輪二郎がさやさんに耳打ちされた上でアドリブで「なんの価値もない」のパートを自由に歌っていて、さいごガッタガッタみたいにカチッカチッと振り絞ったのは奇跡みたいだった。「なんの価値もない」と歌っているのにこんなにやさしい歌はやはり奇跡みたいだ。

すべてが終わり外に出た。川に映る灯りが線を結ぶことなくゆらゆらと揺れていて、「昼間きたない川も夜はきらきらしてる*1」と口ずさんだ。なんの価値もないんだよ、と続ける。先ほど歩いたかつての黄金町は、想像力が追いつけなかったかつての黄金町は、もしかするとこの景色みたいだったんじゃないか、なんて思った。後ろにはうっすらとDJが漏れていて、まるで映画みたいだ。数歩だけ、黄金町の駅に向かったが、遠回りして帰ろうと思い関内方面へ引き返した。橋を渡るときに試聴室を振り返った。あたたかい灯りがともっている。そのちょうど真上には白色透明な金星がつよくつよくまたたいていた。なんだかよくわからない歌をうたいながら、クリアなのに少しだけ重たい頭を抱えて関内へ消えた。

*1:正しい歌詞は、「すごい汚い河も夜 キラキラしてる」です