チャボのラジオインタビューを聞いて

チャボこと仲井戸CHABO麗市のラジオインタビューを夜眠る前に聞いた。この手の話はもう何度も何度も、雑誌や書籍、ライブにテレビなんかでたくさん聞いているんだけど、なぜか不思議とグッと来るものだったので、すこしばかり書いてみました。
http://www.nhk.or.jp/radio/ondemand/detail.html?p=2295_15:NHKラジオすっぴん!

パーソナリティーのダイヤモンドユカイはRCのファンらしい。高校生の時に渋谷の屋根裏に観に行ってましたという告白に「そういえば生意気そうなガキがいたなぁ〜」とお決まりの台詞で返すチャボ。突然吹きすさぶ先輩風、なんだか楽しそうだ。チャボに嬉しそうに伝えた「雨あがりのシングルレコード、持ってますよ」という声の調べはまさに少年のそれだった。

チャボは今年のバースデーライブを日比谷野音でやるらしく、それを受けて「雨あがりの夜空に」のカバーをリリースする。45分のラジオではオリジナル版とカバーの音源をふたつ流していた。オリジナル版は、やはりいささか余白が目立ちすぎる。これだけゆっくりしたリズムの間を彩るには清志郎のボーカルをもってしても少し聞き手は不安気で、シンセサイザーじゃあ音が軽すぎる。ブ厚いホーンセクションがあってこそのRCサクセションだ。生活向上委員会、略してSay!セイコーイ!

それに対して、カバー版の質の高さよ。一発録りらしいんだけど、チャボらしいストイックなプレイが、ライブで磨き続けたリズムとアレンジのRCサウンドに乗っかっている。早川さんのベースの圧が強く、ギターのアレンジは実にチャボらしい。ボーカルも渋くてストイックな質感で超かっこいいぜ。あたりまえだ。1980年から2017年、清志郎と積み上げた37年間のライブキャリアがぜんぶ乗っかっている。カッコいいので、ベッドの上で枕を下に頭を振った。胸の奥の体温が上がったのを感じる。

「雨あがりの夜空に吹く風が早く来いよとおれたちを呼んでるんだ」
清志郎が亡くなってから最初に演ったライブ(I STAND ALONE)で、チャボが「雨あがりの夜空に」を終えた直後になぞった台詞の輝き。どれほどのファンが涙を流し、鼻水を垂れ流したことだろう。ぼくらはあのライブに救われたのだ。そしてこれこそ、オリジナル版で消してしまった幻の歌詞だ。おれとお前が男と女(車)からチャボと清志郎に代わった瞬間、清志郎は風になり、また、ファンはおれたちになったのだ。雲の隙間にちりばめたダイヤモンド、ジンライムのようなお月さま、雨あがりの夜空に吹く風。

RCサクセションが日本語でロックンロールを鳴らすことに成功した功績の多くは、忌野清志郎の歌唱にある。彼の歌唱は息を吸って吐くという呼吸法だけでなく「どんな口の形をつくり、舌をどこに置いて、どんな動きで音を出すべきか」に意識的だ。自宅では鏡の前で口の形を見ながらヘッドホンをつけてマイクで歌ったというエピソードが好きだ。これは想像だけれど、おそらく母音と子音の特徴を言語学的なアプローチから理解し、それを組み合わせながら発話(歌唱)したのではないか。そして彼の歌唱がもっとも得意とするのが濁音と音便、もしくはそれらが組み合わさった単語で、それはたとえば「ガッタ」だったりする。ハイトーンな声色や喉を潰すようなシャウト、ど派手にメイキャップした見た目も手伝って、いささか過剰にも聞こえる歌唱だけれど、歌詞に乗っかった日本語は不思議と聞き手の耳、脳、心に刺さっていく。こういう歌唱のアプローチに、普段は無口で、何をしゃべってるかわからないような世の中からズレた青年が向き合った、というのがしかしさいこうにグッと来るじゃないか。

ラスト2分20秒で、「RCサクセションを再開しようとは、思わなかったんですか?」というダイヤモンドユカイからの率直すぎる質問に対して、「その当時は思ってない。それは自分のなかでRCは止めた、止まったと整理ができてたから」という前置きに「ただ、」と補足の接続詞を続ける。そして清志郎との思ってもいない別れとともに「後悔」という言葉を使ってかなり踏み込んだ回答をしている。ほんとうに真摯でやさしい人だ。

ソロの清志郎とチャボ、少なくとも1990年代の作曲面だけで言えば、チャボに軍配が上がる−−とぼくは勝手に思っているのだけど、「清志郎のようには歌えないから、自分はギターとソングライティングと歌の3つ合わせてなら勝負できるかもと思った」みたいなことを言ってて、RC活動休止後のチャボの作曲の冴えの理由を見た。






それからこれは、ザ・なつやすみバンドの中川さんにもおんなじことを感じるんですけど、チャボは相手を傷つけたり恥をかかせたり、自分をただ大きく見せたり、そんな言葉や口調を絶対に選ばない人だと思う。どこまでもやさしい人なのだ。言葉にまとわりつくその気配は、おそらくポーズだけでは一生消せなくて、美学に近い大切なものを抱きしめることでしかたどり着けない地平だと思う。自分なりのやり方でこういうおとなになりたい、カッコいい人になりたいと常に思っている。

チャボ、67歳の誕生日、おれも日比谷野音でライブ聞くよ。発売、おめでとう!

ベッドから見上げる天井には今朝玄関で見た蜘蛛が這っていた。わが家へよォーこそ。今日はおれんちだと思って最後まで楽しんでってくれ頼むぜいえー。観客のいない静かな夜。目を閉じたら、朝。